沿革

本研究会は、2017年4月18日に舘岡洋子が発した「日本語教師って、何をする人なんだろうね」という一言から生まれた。

2017年度は、舘岡が研究代表者を務めるJSPS科研費・採択研究課題「学びの関係性構築をめざした「対話型教師研修」の研究」の最終年度に当たっていた。上述した舘岡の発言は、この研究課題の成果報告となるシンポジウムに関する打ち合わせの席上でのつぶやきである。すでに当時、日本語教師は「日本語を教える」ことに留まらない役割を担うようになっていた。そのため、私たちにとって「日本語教師は何をする人か」という問いは、自身の日本語教師としてのアイデンティティに関わる、いわば心に刺さる問いであった。そこで、この問いを軸に当時の舘岡研究室のメンバーの有志(舘岡洋子、古屋憲章、古賀万紀子、小畑美奈恵、孫雪嬌)による研究会を立ち上げることになった。それがNKS研究会である。NKS研究会を立ち上げるにあたり、「日本語教師は何をする人か」という問いをより具体化し、「日本語教師の専門性とは何か」を探求することとした。また、NKS研究会を推進するための仕掛けとして、自分たちが考える日本語教師の専門性を世に問うための本を出版することを当面の目標とした。その後、2018年12月に成立した入管難民法の改正にともなう一連の日本語教育施策の実施や2020年3月頃から続く新型コロナウイルスの感染拡大にともなう来日留学生の減少やオンライン授業への移行により、日本語教育を取り巻く環境は大きく変化し、現在も日々変化している。そのような状況のもと、「日本語教師は何をする人か/日本語教師の専門性とは何か」は私たちにとって更に切実な問いとなっていった。

NKS研究会のこれまでの活動は大きく五つの時期に分けられる。以下、各時期に行った主な活動を紹介する。

【第1期:資料収集期】(2017年5月~8月)
第1期には、主に日本語教師の専門性に関わる資料の収集が行われた。具体的には、『日本語教育』『国立国語研究所 日本語教育論集』『世界の日本語教育』の中から「日本語教師」「日本語教育」をタイトルに含む論文を収集し、整理した。また、日本語教師をテーマとする本を一人一冊選び、レビューしたうえで、それぞれの本で主張されている日本語教師の専門性に関し、議論した。そして、これらの活動の成果を2017年8月に北海道秩父別町交流会館で行われたJSPS科研費シンポジウム「日本語教師の専門性を考える」において、発表した。

【第2期:資料分析期】(2017年9月~12月)
第2期には、主に第1期に収集された日本語教師の専門性に関わる資料の分析が行われた。具体的には、第13回協働実践研究会&科研報告会(JSPS科研費26284073「学びの関係性構築をめざした「対話型教師研修」の研究」の成果報告)における発表をめざし、資料の収集・整理を行うとともに、収集した資料の分析を行った。

2017年12月に早稲田大学で行われた第13回協働実践研究会&科研報告会において、NKS研究会のメンバーで日本語教師の専門性に関するパネル・ディスカッションとポスター発表を行った。まず、パネル・ディスカッション「日本語教師の専門性を考える」では、様々な立場で日本語教育に携わる4名のパネリストが舘岡からの問いかけにもとづき、「日本語教師は何をする人か/日本語教師の専門性とは何か」をめぐり、議論を展開した。その際、舘岡より「専門性の三位一体モデル」が初めて提案された。次にポスター発表では、日本語教師の役割とあり方に関する言説の変遷に関し、NKS研究会のメンバーで発表した。この発表は5枚のポスターを並べて同時に発表するという大掛かりなものとなった。

【第3期:成果公開期】(2018年1月~2019年3月)
第3期には、主に第2期に行われた調査・分析にもとづき、成果の公開が行われた。

2018年10月には、新たなメンバーを迎えるとともに、本の出版を見据え、NKS研究会内に次の四つのチームが編成された。

・教師論チーム:
 日本語教師の資質・能力に関わる言説を分析する。
・教師養成・研修チーム:
 日本語教師の養成・研修に関わる言説を分析する。
・三位一体チーム:
 「専門性の三位一体モデル」の精緻化、および「専門性の三位一体モデル」にもとづくワークショップの改善を図る。
・文献アーカイブチーム:
 収集した文献の整理、分類、保管を行う。

【第4期:書籍構想・執筆期】(2019年4月~2020年9月)
第4期には、これまでのNKS研究会で行われた諸活動をどのように本(『日本語教師の専門性を考える』)としてまとめるかを検討したうえで、本に掲載する原稿の執筆、修正をしながら、本の構成を整えていった。

まず、2019年4月に本の全体構成を検討した結果、第1部:問題提起編、第2部:歴史編、第3部:提案編、第4部:実践編の4部構成とすることが決定した。次に、決定した全体構成にもとづき、(第3期に編成された)各チームで本の原稿を執筆したうえで、NKS研究会内で原稿を検討し、検討にもとづき原稿を修正するというという作業を繰り返した。併せて、各部の構成に関しても、NKS研究会内での検討をとおし、必要な章を加えたり、不要な章を削除したりした。

2020年4月以降は、原稿を検討する必要があったため、ほぼ1か月に一度のペースで会合が行われた。それらの会合は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、すべてオンラインで行われた。

【第5期:ワークショップ開発期】(2021年4月~現在)
2021年7月にこれまでの研究成果をまとめた 『日本語教師の専門性を考える』 が刊行された。
※舘岡洋子による自著紹介:「自著を語る 幾重もの対話の中でいっしょにつくる」言語文化教育研究学会Webマガジン「トガル」

現在、主に「専門性の三位一体モデル」を用いたワークショップの開発、実施、改善を目標として、第5期が進行中である。